登山が趣味の叔父が、
懇意にしている人から昔聞いた話ね。

その人は登山口で土産物屋をやってたんだけど
おにぎりとかも売ってたから
夜明けとともに登ろうとする登山客のために
夜明け前から店を開けてた。

その日も店の前で団体さんがその時を待ってたんだけど
彼らが急にざわつきだして
何事だろうと思って自分も店前に出て行った。

みんなの視線の先には
土まみれの男が山から下りてきていた。

それだけでも異常なんだけど
その男は誰かを背負っている様子だった。

誰も言葉を無くして動けなかったんだけど
その男は店の前まで歩いてくると
力尽きて倒れてしまった。

それでみんな正気に戻って救急車を呼んで
二人を介抱したんだけど
負ぶっていた男の方は気絶していただけだったけれど

負ぶわれていた男の方は全身を骨折していて
腐敗臭もひどくだいぶ前に死んだようだった。

だから事故で死んだ友人を置いていくのが忍びなくて
背負って下りてきたんだろうって話になった。

子供や軽い女性を背負って歩くのも
実際はかなり大変で
同体格の男性ならばその比ではない。

その上、足元が定かでない山道、それも夜。

登山経験者ならその困難さがありありと理解できて
彼に畏敬の念を持った。

やがて救急車が到着し
救急隊員が応急処置をしていると
彼が意識を取り戻して言った。

「友人が縄場で落ちて谷に落ちてしまったんです。
助けに行ってください」

もう一人いるのか、ってことで
登山客や青年団から有志を募って
すぐに救助に向かった。

叔父が懇意にしていた人も
店を他の人に任せて参加した。

一か所しかない縄場に着いて慣れた人が下りて行き
しばらくして転落したであろう場所は見つけたんだけど
肝心の転落した人が見つからない。

落ちた距離を考えると
五体無事だとはとても思えないんだけど
その体で山中を彷徨っているらしい。

結局、見つからないまま
日暮れを迎えてしまい
その日の捜索は打ち切られた。

それで病院の彼により詳しい話を聞きに行った。

彼は全身疲労で動けなかったが
頭の方ははっきりしていた。

報告を受けて落ち込んでいたが
彼の捜査のためなら是非にと言ってくれた。

それによると
昨日の午後三時ごろ、
例の縄場で友人が落ちていった。

谷底に向けて何度も友人の名を叫んだが
全く返事がない。

どうにか下りていける場所を探していたが
見つからなかった。

その内、薄暗くなってきてしまったので
このままここにいるより麓まで下りて
応援を呼んだ方が早いと判断して山を下ることにした。

捜索隊のメンバーから疑問の声が飛んだ。

縄場から麓まで何事もなければ
1時間ほどで着く。

どう考えても半日はかからない。

彼も、そうなんです、っと声を荒げた。

月が出ていたので
真っ暗というわけでもなかった。

それなのに歩いても歩いても進んでいる感じがない。

一本道のはずなのに
同じところをぐるぐる回っている様子がする。

疲れがピークに達したのか
意識が途切れだして体もどんどん重たくなっていく。

それでも友人のことを思い
必死に歩き続けてようやく麓に着いた。

その必死な表情を疑う者はいなかった。

言葉を挟んだ青年隊の一人も真っ赤になって
自分を恥じていた。

それで最後に確認した。

「あなたは3人で登山していて
あなた以外の2人が滑落した。
1人は死んでもう1人は見つからなかった。

そこであなたはご友人の1人を担いで山を下りた。
もう1人は残念ながらまだ見つかっていない」

そう言うと彼が不思議そうに言った。

「いや、僕と友人の二人で登山していました」

それで場は混乱。

じゃあ、彼が背負っていたのは誰なんだって話になったんだけど
本人はこの人達は何を言ってるんだ、って訝しげな表情を浮かべた。

同じ病院の霊安室に連れていき、
運ばれていた遺体に対面させると

「見つけてくれたんですね。
ありがとうございますありがとうございます」

って涙を浮かべた。

多分、友人が置いて行かれるのが嫌で
彼にとり憑いていたんだろうって。

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