姉には二人の子がいて、
上の子の幼稚園の入園式に祖母が行きたいと言い出した。

当時は入院中だったため、
医師に相談した上で外出許可をとっていたのだが、
当日の朝に熱が出て、外出の許可が取り消された。

祖母は酷く落ち込んだ。

その日は木曜日で、
午後から仕事がなかった私は姉からのメールで事情を知り、
祖母のフォローのため、
仕事を終えてすぐ祖母の病院へ向かった。

祖母はベッドですやすや寝ていた。

顔色もよく意外にだなあと思っていたら目を覚ました。

そして、嬉しそうに夢の話をした。

「夢の中で花子(姉の上の子)の幼稚園の入学式に行っていたのよ。
花子も私の方に気づいてニコニコ笑ってくれた。
黄色い幼稚園の帽子がとても似合ってたわ。

姉子に抱っこされていた太郎(姉の下の子・当時1才)も私に気づいて、
『ぐーまぐーま』って、私を呼びながら笑いかけてくれたわ。
夢の中でも凄く嬉しかった。

ただ、さすがに夢というだけあっておかしなところもあって、
何故か姉子の旦那が黄色いスーツを着ていての。
真っ黄色のスーツなんて、漫才師じゃないんだからねぇ…
でも、夢の中でも入園式にいけて、嬉しかったわ」

それを聞いた私は、
落ち込んでないようで一安心。

しばらく祖母と話をしていると、
姉から連絡があった。

『本当は今から花子を連れて後そっちに行きたいけど、
旦那側の親が来ていてそちらに行けそうもないから、
ばーちゃんに写真だけでも見せておいて。
日曜には行くから』

と画像が添付されたメールがきた。

新しい制服を着た花子の満面の笑みの写真。

そして、家族全員で
『入園式』と書かれた門の前で撮った写真。

…あれ?と思ったのは、
姉の旦那がお笑い芸人のような黄色いスーツを着ていたから。

姉に「何これ?」と確認をしたところ、

「これねぇ~(笑)
ここ数年、筋トレしすぎて
結婚した時に持っていたスーツが全部着れなくなっていたの。
しかも今朝それが発覚して大騒ぎ(苦笑)

他にスーツがなかったので仕方なく着たのよ~
前から何度も、念のためスーツを着てサイズ確認しておいて、と言ってたのに
アジャスターがついてるから大丈夫、とか言って着なかった結果がコレ。
ホントどうしようもないよね~」

(※姉の旦那は職人のため作業服で仕事に行っているため、
スーツは基本的に冠婚葬祭の時しか着ない)

「ばーちゃんに連絡した?
ばーちゃん夢の中で黄色いスーツを着た旦那を見たと言ってたけど…?」

「ばーちゃんが知ってるわけないよ~
このスーツ、去年の友人の結婚式の余興用に買ったもので、
一度着た後タンスの中にずっと入ってて、
ばーちゃんはスーツの存在すら知らないし。

…そういえば、
花子が今日ばーちゃん来てたよねと言ってたよ。
似たようなお婆ちゃんを見かけて勘違いしたのかな、
と旦那と話してた。

あと、太郎も途中で『ぐーまぐーま』と
窓の方見てニコニコ笑ってたけど…
もしかしてばーちゃん、
あまりの来たさに魂だけ来ちゃったのかなあ」

というやり取りを姉とした。

祖母は霊感も無いし特別な能力も無い。

でも、そんな人間が
『ひ孫の入園式に行きたい』という強い気持ちだけで、
そんなことができるんだとしたら…

人間って案外簡単にいろんなことが出来てしまうんじゃないか?

死ぬ瞬間の生への執着や強い思いがあれば、
本当に幽霊があちこちにいるんじゃないの?

私のように霊感ゼロの人間には見えてないだけで、
本当はあちこちに死者の幽霊や生霊がいるのかも…
と思うとちょっと怖くなった。

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