俺は、小さな海辺の町で生まれた。
砂浜には松の木が立っていて、
満潮時には松の根元まで水が来て、
海の中から木が生えているような不思議な光景になった。
引き潮の時は、貝殻拾いをした。
赤ん坊の妹にオハジキをしてみせたら喜ぶかなと思ったんだ。
目を上げると、
キラキラ光る海面に漁をする木舟がたくさん出ていた。
舟が引き上げて来るのを待ちかまえ、
網からこぼれ落ちたピチピチの魚を家族の人数分拾って、
俺はダッシュで家に帰った。
寺の鐘が鳴り終わるまでに帰ればセーフという決まりだったのだ。
楽しい毎日だったが、俺が幼稚園に入る年、
うちの一家は東京に引っ越して、
俺は東京S区の幼稚園に入った。
と、思っていた……小1の時までは。
ところが、海辺で暮らしていた当時の写真が1枚もない。
親に聞くと、うちはずっと東京で、
同じこの家で暮らしているそうだ。
じゃあ旅行に行った時の記憶か?と首をひねると、
幼児や赤ん坊を連れて水遊びをするのは危ないから、
R(俺の名前)が幼稚園に入る前に家族で海に行ったことはないと言う。
「貝殻のオハジキとか、木の舟とか、いつの時代の話をしてるんだ」
と両親からは笑われた。
でも、夢や想像にしては、
やけに記憶が鮮明で細かいんだよなあ。
3歳の子供の頭ででっち上げられるようなディティールでもないしさ。
まあいっか、で来ているが、俺の人生における最大の謎。
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コメント
コメント一覧 (7)
舟より根元まで海水が来ても平気で枯れない松の木の方が不思議。マングローブだと思う。
自分の記憶と混同したのでは。でもとても鮮やかで素敵
な記憶だね