名古屋の友人に聞いた話。
カップル2組で、諏訪湖までドライブに行った時のこと。
帰りがすっかり遅くなったので、女の子は2人とも後部座席で寝ていた。
友人は助手席でテレビを見ていたが、急に車がふらついたような気がして顔を上げた。
見ると、いつのまにか、スピードも落ちている。高速道路では、かえって危険だ。
ドライバーの方を見たが、居眠りはしていない。只、様子がおかしかった。
落ち着かない様子で、バックミラーをチラチラと見ている。
「おい、スピード落ちてるぞ。」友人は注意を促すようにそう言った。
が、ドライバーは友人を横目で見ると、バックミラーを小刻みに指差した。
不審に思った友人がミラーを覗くと、後部座席で寝ている女の子2人の間、
後部座席の真ん中に、白い腕が一本見えた。
大きさからすると子供のような腕。それが、背もたれの上から垂れ下がるように伸びている。
車はステーションワゴンなので、後部座席の後ろは荷室になっている。
要するに、シートの後ろに子供が隠れて腕だけを出しているような状況だが、
当然、そんな所に子供を乗せた覚えはなかった。
腕は、時折、プラン、プラン、と力なく揺れ、その様子は、色の白さと共に死人を連想させる。
友人の視界で何かが動いた。とっさに、目でそれを探る。
シートのすぐ後ろ、丁度、子供が隠れていそうなあたりに、蠢く黒い塊の一部が見えた。
姿形は濃い闇に紛れて判別出来ない。
しかし、友人には、それが子供などではないことが、何となくわかった。
背筋を冷たいものが走った。
すると今度は、後ろから、女の子の寝息に混じって、妙な音が聞こえてきた。
カリ・・・パキッ・・クチュ・・・・
静まりかえった車内に、そんな音が微かに響く。
白い腕が、その音に合わせるかのように揺れていた。
グチュ・・・ガリ・・・パキッ
「うわああああ!」
そんな雰囲気に耐えかねたかのように、突然ドライバーが叫び声を上げ、
車を路側帯に寄せると、急停止した。
減速の勢いで女の子が目を覚ます。後部座席に、白い腕はもうなかった。
友人とドライバーは車を降りると、後部へ回りハッチを開ける。
荷室には誰もいなかった。白い腕も黒い塊もない。
しばらく荷物を動かしたりして探したが、それらしいモノは見つからなかった。
ただ、後部座席の後ろ、さっき音がしていた辺りに、黒い染みが数個あった。
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