昔、とある施設で研修をした時のこと。

よく話し相手になってくれる、
Aさんという50代の男性入所者さんがいた。

Aさんは穏やかな人で、
私が病気の親の面倒を見てる話をすると、
色々励ましてくれた。

Aさん自身は、
幼い頃に両親と兄妹をいっぺんに亡くしたとのこと。

家族は大切だよね、
大変だろうけど、
親孝行できるのは幸せだよと言ってくれた。

Aさんとは出身地も同じで、
よく地元の話で盛り上がった。

ある時私は、
何のはずみかは忘れたけど、
地元の心霊スポットになっている廃屋の話をした。

いつも穏やかなAさんの表情が、
その時一瞬とても険しくなって、

「君はその廃屋に行ったことあるの?」

と聞いてきた。

私は、

「いえ、私は心霊スポットとか肝試しとかは嫌いなんで。
しかもそこでは、肝試しに行った人が大怪我したらしんですよ。
何でそんなところに行くのか理解できませんよね」

と答えた。

するとAさんはホッとした表情になって、

「そうだよね。
肝試しなんてする連中の気がしれないよ」

と頷いていたが、
そのうち、

「うんうん、ああいう、
肝試しなんて言って荒らしに来る連中は屑だ、
あいつらは屑だ」

と、急に人が変わったように呟きだした。

私は驚いて、
Aさん?Aさん?と呼び掛けたんだけど、
Aさんは上の空で、

「…心霊スポットだと?
人の魂を何だと思ってる、ゲラゲラ笑いやがって。
何の罪もないのに、
殺されたあげく笑い物にされなきゃならんのか。
ふざけるな、糞野郎どもめ。
あいつらは殺されて当然だ。
女は犯してやった、ざまあみろ!!!」

異変を察した職員が飛んできて、
Aさんは静養室に連れて行かれた。

私はスーパーバイザーからこっぴどく叱られた。

あとから聞いた話では、
Aさんの家族は強盗に皆殺しにされ、
空き家になったその家が、
のちに心霊スポットと言われるようになった。

大人になって久しぶりに家に訪れたAさんが、
肝試しに来たDQNとトラブルになり、
傷害致死とのことだった。

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