あれは忘れもしない、
小学五年の夏休み前のことだ。

古い学校でな、
創立88年って位のボロボロの学校だったんだ。

一応改築やらなんやらで、
生徒の手の届くような場所はコンクリートで塗り固められていたが、
天井付近や天井は木造だった。

今思うと変な感じだったよ。

んで、これまた年代物なプールがあるんだが、
事件はそこで起こった。

いや、もう起こってたんだ。

今思えば、始めに起きてたのが、
プールで泳いだりなんだりとしていると、
足を捕まれる人が何人か出たんだ。

まあ怪談の類じゃよくある話だし、
俺がいたクラスでそういう被害にあったって言う奴も、
お調子者な奴やちょっと意識過剰な奴とかだった。

先生も

「フザけてるせいで、いたずらされるんだろう」

と笑い飛ばしたりしていた。

はっきりとした形として現れたのが、
俺のクラスがプール授業の日だった。

その年に入ったばかりの
新米の女のA先生(20歳かそこらで美人だった)が、
授業見学のような感じで来ていた。

授業は普通に行われて自由時間になったので、
担任やその見学に来てたA先生も、
プールに入ってみんなと遊んでいた。

突然A先生が溺れた。

正確には、
足がプール横にある溝に挟まって、
浮かんでこれなくなったらしい。

俺は近くにいなかったので
その場は見合わせていないが、
担任や、近くにいた男子でなんとか足を溝からはずして、
プールの上に引き上げたらしい。

A先生は、
無理矢理足を引っ張ったので捻挫。
(だったか?)

とにかく怪我をしたということで、
保健室まで担任が連れて行った。

保護者がいないので、
俺らもプールから上がって着替えるように言われた。

俺の学校は、
女子更衣室はあったが男子更衣室がなかったので、
男子は教室で着替えていた。

着替えをしてる最中、
A先生を引き上げたうちの一人が、

「うちのプール、溝なんてあったか?」

と言った。

俺も溝なんて初めて聞いたし、
そんなものあるなんて知らなかった。

クラスの連中も同意見だったようで、
誰も溝の存在は知らなかったらしい。

今考えると、
人の足がハマるようなサイズの溝を、
学校が放置しておくだろうか?

そんな話をしながら着替えを終え、
女子たちも戻ってきた。

A先生にいつもベッタリとくっついていた女子2人組みは、
半泣き状態になっていた。

女子も溝の件について、
同じような話をしていたらしく、
男子と女子で、
お互いの話を繋ぎ合わせてみようということになった。

A先生から離れて遊んでた俺や数人のクラスメートは、
A先生の溺れる状態を遠巻きに見てるだけだったので、
自然聞く立場になる。

溝から引っ張り上げた男子数人は、
声を揃えて

「確かに溝はあった」

足はプールの壁と壁の間に引っ掛かっていたし、
実際、先生のくるぶしと足の指先を掴んで引っ張りあげた奴も、
同じ証言をしていた。

しかし女子の話によると、
先生を助けた後にどんな溝かと確認したら、
そんな溝は一切なかったという。

ただの平面で、
プールの底面から壁に当たったら、
そのまま真横の壁のみだったという。

プールの側面を全体調べたわけではないが、
A先生のいた場所には溝はなかったそうだ。

そもそもプールの水深は、
A先生が溺れるほど低くはない。

当時身長150cm満たない俺でも、
肩は出るくらいの水深だ。

女性とはいえ、
そんな俺よりも背が高かったはずのA先生が、
足がプール如きの溝に挟まったくらいで溺れるだろうか?

ああでもない、こうでもないと、男女で揉めてる所に、
A先生にベッタリだった女子2人
(この子らもちょっと関係あるので、BさんとCさんとする)
のうちのBさんが、半ベソかきながら

「・・・顔があった」

と言った。

その言葉を聞いたCさんが、
凄い怖い顔をしながら

「Bちゃん!!!!」

と叫んだ。

あの顔はたぶん一生忘れられない。

怖かった・・・。

顔とか言われて何が何だかわからないし、
ちょうど男女が揉めて騒いでる中だったせいもあって、
誰も聞いてなかったようだが、
CさんのBさんを一喝する声のせいで全員が静まった。

「顔ってなに?」

誰かが聞いたけど、
BさんもCさんも二人でボソボソと言い合いをするだけになって、
返答はこなかった。

二人とも元々、微妙に人と接しないような性格をしてて、
二人だけの世界を共有してるような雰囲気がいつもあったので、
これ以上二人に触ってもしょうがない、ということになり、
そのまま流すことにした。

とりあえず、A先生を心配している女子と、
好奇心強めな俺と男子数人で、
保健室まで見舞いにいくことになった。

A先生は保健室にはいなかった・・・

保健の先生曰く、

「足の怪我が酷くてここでは応急手当しかできないので、
病院まで搬送してもらった」

と言う。

子供ながらに俺たちは不信に思った。

A先生は2日後に学校に戻ってきた。


ちょっと話を前に戻す。

A先生が戻ってくる前の話だ。

学校では、放課後になれば
プールが自由解放されていたが、
A先生が溺れた日は、学校側が

「調査のためだ」

とかいう理由で解放されなかった。

しかし、俺や溝から先生を助けたクラスメートで、
本当に溝はあったのか?という好奇心を抑えきれず、
放課後にちょっと忍び込むことにした。

プールのフェンス自体はそんなに高いもんじゃないので、
簡単に乗り越えられた。

中に入ると、
プールの水は全て抜かれていた。

溝は・・・なかった。


話を、A先生が戻ってきた日に戻す。

A先生はおかしくなっていた。

はっきりとではないが、
顔も違う感じになっていて、
前の印象はなかった。

ソレは、日に日に状態が悪くなっていった。

色々変な行動があったが、
一番印象に残ってるものは、
給食運搬用の台をリアカーのように押しながら、
俺の教室の前で止まり、
BさんとCさんに目を向けて手招きしていた。

無表情でだ。

担任の先生が苦い顔をしながら教室を出て行き、
A先生をどこかに連れて行っていた。

六年生の水泳授業の時にA先生が、
俺たちの授業の時のように見学にやってきたらしい。

前科もあるので、A先生は他の先生に、
プールに入るのは堅く止められたらしい。

その日のA先生は、
おとなしく座っていたらしかったが、
溺れてからおかしくなったA先生に、
フザけてちょっかいをかけようと、
六年の男子生徒が

「せんせー。溺れた場所ってあそこー?」

とか聞きながらA先生に近寄ったら、
A先生の足には、
とうもろこしを押し付けたような後がいっぱいついていたそうだ。

ちなみに、
A先生はその場でニコニコしてるだけで、
何も言わなかったらしい。

その話を、
1年違いの兄弟がいるクラスの誰かが聞きつけて、
うちのクラスでは瞬く間に噂になっていった。

足を小さな子供の霊に捕まれた跡だとか、
溝が異次元と繋がっててそこに行った証だとか。

話が広まりまくって担任の耳にでも入ったのか、
担任が

「人の陰口を叩くな」

と怒っていた。

数日経ったある日のこと。

俺と友達数人で

「さぁ帰ろうか」

と、授業道具をランドセルに押し込んで教室を出た。

廊下の奥の方で、
誰かがうずくまっているように見えた。

出口に行くにはその廊下を突っ切っていくしかないので、
そのまま廊下を進んでいった。

A先生だった。

A先生は、
なぜか廊下に大量の教材を撒きながら、
ペタリと座り込んでいた。

うずくまってるように見えたのはこのせいだと思う。

「あら、おはようございます」

A先生は放課後なのに、
朝の挨拶を俺たちにしてきた。

A先生は気分がいいのかどうかわからないが、

「授業はどうだ」

とか、

「学校は楽しいか」

とか、

「いじめはないか」

など色々聞いてきた。

わりと普通に話せる様子だったので、
思い切ってA先生に、
足のことを聞いてみることにした。

ただ、まさか足をいきなり見せてくれとも言えないので、
(恥ずかしいし)

「靴のサイズいくつですか?」

とか、子供なりに遠まわしに聞いていった。

なんて言ったのかは覚えてないけど、
友達が機転を利かせて、
足を見せあうように仕向けた。

A先生は溝にハマった足の方を、
ズボンをちょっとまくりあげて見せてくれた。

たくさんのデコボコの跡があった。

確かに、
とうもろこしを押し付けた跡に見えなくもない。

でもあれは、
口をイーッッ!!って引っ張って、
そのまま足に押し付けたような歯型だった。

前歯や八重歯みたいな跡がクッキリついていて、
大量の歯型を押し付けたような跡だった。

A先生がソレを見せて、
俺たちが認識した瞬間を見計らったかのように、
クスクスと静かに笑いだした。

怖くなった俺たちは、
一気に校門まで逃げ出した。

全員、事もあろうに上履きだった。

それほど必死だったんだと思う。

「あれ歯型だよ!」

「ドクロの歯のとこ押し付けたみたいな跡!!」

「あの人ヤバイって!」

上履きで出たけど、
誰も戻ろうとは言わず、
その日はそのまま上履きで帰った。

次の日、A先生は至って普通だった。

おかしいままだけど、
昨日の事は何も知らないといった素振りだった。

ただ、ここから学校全体への異常が始まり出した。

図書室の本が全て逆さまに並んでたり、
校庭のど真ん中に、
理科室のビーカーやフラスコが大量に割れてたり、

朝来ると、カラスやハトが必ず
学校に何匹か入ってきていることも何週間か続いた。

タチの悪いいたずらって事で、
学校側は用務員に夜の見回りとかをさせていたが、
結局犯人は見つからず、変ないたずらが続いていた。

俺のクラスでは、

「きっとA先生が犯人だ!」

と話が持ちきりになっていた。

歯型の一件以来、
俺と友達が話の中心になっていた。

そういった噂めいた話は人の好奇を引くせいか、
A先生観察隊など名乗り出す連中もいた。

「学校から家まで跡をつける」

とか言って。

いつも見失っていたが・・・・


忘れもしない7/22日。

A先生が死んだ。

死因は変死らしいが、
詳しい原因はわからない。

家で死んでいたそうだ。

ただ、ちょこっと新聞にも載っていた。
(母校バレるんで調べないでほしい。
検索かけても出てこなかったから、大丈夫とは思うが)

クラスの女子が、

「A先生のこと書いてる」

と言って、
新聞の切り抜きを持ってきていた。

小さな枠に、
『小学校の教師変死』という見出しで、
6~7行書かれてた。

なぜ死んだ日を明確に覚えているかというと、
その次の日(7/23)に水泳の授業があって、
Bさん、Cさん、俺と、A先生の足を見た友人が、揃いも揃って、
プールからあがると、あのA先生についてた歯型がついていた。

足を引っ張られたとか、
溝が出てきたとかはなかった。

みんな気味悪がって俺らを避けてくれた。

余談だが、そのせいで、
その日楽しみにしてた給食のチーズハンバーグが、
俺と友人だけなかったのは忘れんぞ!

俺ら自身も気味悪くて、
皆で相談して担任に相談しにいった。

担任は俺らの話を聞くなりすぐに車を出して、
どっかの寺に連れてかれた。

「どこ行くの?」

とか聞いても、

「後で話す」

の一点張りだった。

寺につくと、
急いで本堂のような場所に連れてかれた。

一休さんに出てくるような住職みたいな人に、

「こいつらかぁ!こいつらかぁ!」

と言われて、
TVでよく見る渇を入れる棒みたいなので、
俺と友達が肩を叩かれた。

俺はワケもわからず、
とりあえず怯えてた。

BさんとCさんの方は、
住職が一瞥して

「魅入られたか・・・」

とボソリと呟いた。

その後、俺と友人、BさんCさん、と分けられ、
別々にお経を唱えられた。

お経の種類が違ったのかもしれない。

お経が終わったあと住職の爺さんに、

「人の噂は人の恨みになる。
好奇心で近づくな。喋るな」

と教えられた。

妙に心に染みた。

Bさんは残って、
俺と友人とCさんだけが、
担任の車に乗って学校に戻された。

そのあと、
職員室の奥にある応接室の方に連れてかれて、
担任から事情を聞いた。
(小五の頃だから、詳しいことは聞けなかったけど)

「ここからは先生の独り言だから、ただの戯言だ。
でも口外はするな」

という前置きだった。

子供の俺でも、
ちょっとした緊迫感が伝わって
ちょっと怖かった。

『憑き護』って知ってる人いるかな?

読み方はツキゴ。

担任曰く、
A先生はその憑き護だったらしい。

憑き護っていうのは簡単に言うと、
生きた守護霊みたいなものらしい。

普通に生きてて、
人を護ったりするけど、
かと言って霊でもないらしい。

土地守とかに近い存在らしくて、
要するに、不幸を被る避雷針みたいな人なんだそうだ。

どこかの家系に、
そういうのが強く現れるのがあるらしい。

鬼門、霊道、etc…

とにかく霊的なモノで、
普通の人には手がつけられないような場所に、
それとなく住ませるそうだ。

京都の方や奈良とかに、
憑き護は多く住まされてるとも聞いた。

担任の話に戻る。

理由は不明だが、
プールでの怪異は大昔からあって、
足を捕まれたりとかは本当にあるらしい。

それで溺れて大変な事件になったとかも、
結構頻繁にあったらしい。

困った学校側が、
A先生が憑き護だったのを調べて、
学校に採用したそうだ。

そして問題の日、
A先生はたぶん憑き護として、
俺たち生徒の避雷針代わりに、
『プールの何か』に捕まれたみたいだ。

その後は、
実際には病院に搬送されたのではなく、
俺たちにお経を唱えてくれた住職のとこに行ったそうだ。

その『プールの何か』がよっぽど強かったのか、
A先生が耐え切れなかったのかはわからないが、
とにかくA先生は、ソレに負けたらしい。

学校としては、
憑き護によって怪異から解放されると思ったようだが、
逆に憑き護がダメになってしまったとのことだ。

はっきり覚えてないが、
話を聞いた時、
俺と友達、Cさんは泣いたと思う。

A先生の足についた歯型を見た後の、
学校で起きたいたずらはたぶん、
憑き護のA先生が護りきれなくなり、
今までおとなしくしてた何かが暴れたせいだと、
子供ながらに解釈していた。

今でもそう思う。

最初のうちは、

「A先生はヒーローみたいな存在で、
俺たちを護ってくれてたんだよ」

とか誰かに話そうと思ったが、
俺は今まで守ってくれてた人を、
おかしな人呼ばわりしたり、
いたずらの犯人に仕立てあげてたのだ。

そう思うと心が痛くなった。

誰かに話す気はすぐに失せた。

罪悪感が強く残った。

忘れもしない。

担任もそれを俺たちにわかって欲しくて、
たぶんこの話をしたんだと思う。

学校ではA先生を採る前などは、
プール開きの日にお祓い。

何か変なことがあると夜にお祓いなど、
一時しのぎを繰り返してたそうだ。

翌日、Bさんは行方不明になった。

正確には、家族ごといなくなったそうだ。

夜逃げかな?

「魅入られたか・・・」

といった住職爺さんの言葉は、
Bさんに向けての言葉だったのかもしれない。

その後、俺たちの中でこの話をしなくなったし、
クラスでA先生の話が出ても、
無視することを徹底した。

今でもこの学校はあるし、
俺が卒業するまでに溺れた人が結構いたから、
たぶん、プールの怪異もまだ続いてると思う。


最後に。

これ話したのは、もう10年以上経ってるし、
何より、俺の中で偉大な人となってるA先生の記録を、
ここに残しておきたかったからです。


『憑き護』についてですが、
説明不足だったようです。

話自体が長くなってしまったので省いたせいです。

すまん。

俺も物心ついてからそういったモノに興味を持って、
色々気になって調べようと思ったのですが、
ググったり図書館で文献など探しても、
出てきませんでした。

二年ほど前に小学校の同窓会があり、
当時の担任も出席していたので、
話しにくかった事ですがもう月日が経ってたので、
憑き護について聞きました。

ただ、担任も人にちょこっと聞いただけなので、
詳しくわからないそうです。


『憑き護』

現代の通称で忌み言らしく、
表に出て来ない言葉だそうです。

今の時代では憑き護本人が、
憑き護だという事実は知らないそうです。

人によっては、
親から子に継がれて知ってる人もいるのかもですが。

大昔には、憑き護は別の名称で呼ばれており、
(その名称を話すと地域が限定されてしまうので伏せます)

厄災や飢饉などが起きた時に、
生贄として扱われていたそうです。

憑き護といってもピンからキリまであるらしく、
避雷針として効果の強い人は、
そのまま何もないように生活していくそうです。

ただ、詳しくは不明ですが、
お寺だか国の何かだかに、
憑き護の家系は記録されてるらしく、

霊の発祥が強い場所に、
何らかの理由を与えて、
その近くに引っ越させたりしているらしいです。

あと、一定期間に強く念が発生する場所には、
会社の出張とかで合わせて、
期間の間だけその場に居させて念を鎮めさせる、とかも聞きました。
(会社で意味のない出張をさせられた経験のある人は、実は憑き護かも)

効果の弱い人の場合、家系の古い人が、
自分が憑き護の家系だと知っている時には、
避雷針の立場になる前に、お寺などに連れていくそうです。

表向きには心の修行ということで、
滝打ちや禅などを行わせて、
実際には、お寺にいる間に避雷針として強くするそうです。

効果が弱くて、
家系についても知らない人は、残念ながら、
A先生のようなパターンになったりすることが多いそうです。

勿論、普通に生活できたりもするようです。

意味不明な箇所や矛盾点もあると思いますが、
俺が担任に聞いて覚えてるのは大体こんな感じです。

ただ、何も知らない人を、
勝手にそういう風に扱うのっていいのかな?って思います。

だから表沙汰になってないのだとは思いますが。

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