これは僕の専門学校時の講師に来ていた先生が実際に体験した、
洒落にならない話です。

昔の六甲山は入口に大きな大木が生えていたそうです。

普通は大木の左側を通って行くのですが、
右側も通ろうと思えば通れるのだそうです。

男4人でドライブに行きました。

2ドアの車で先生は助手席に乗っていたそうです。

「おい、あの木の右側通って入ったら
幽霊が出るって知ってるか?」

ドライバーがみんなにそう語りはじめます。

みんななんとなくその噂は知っていました。

「通ろっか?」

!!!!

「やめとけ。何もわざわざ通ることないやんけ!!」

先生はそう言って反論したのですが、
ハンドルをにぎいっているのは彼。

「こわがってるんか?
出るんやっても車を停めんかったらええやんけ。
ふっふっふ」

そう言いながら強引に右側に進入しました。

誰もそんな物好きはいないのでしょう。

長々と生えた雑草を踏み倒して通過していきました。

「なっ、なんも無いやんけ」

そういって車内は
またくだらない話題で充満してきました。

しばらく走っていると
路肩に女の子が一人とぼとぼと歩いています。

「おい、女の子がいるで。ナンパしよ」

男4人集まると
すぐにこういうノリになってしまいます。

おおかた彼氏とドライブに出かけ
ケンカでもして車から降りたのでしょう。

「お姉ちゃん!どないしたん?
乗せてったろか?
歩いて下まではしんどいで」

女の子は何も言わずに項垂れています。

「なっ、遠慮することないやんけ。乗りな」

そういって後部座席に女の子を挟む形で乗り込みました。

さすがに2ドアの車に5人は窮屈です。

しかし、女の子が加わったことで
車内は一気に活気づきました。

落ち込んでいる女の子を笑わせようと
後ろの2人が必死になって冗談を連発するのです。

みんなはゲラゲラとバカ笑いです。

ようやく女の子も落ち着いたのでしょう、
また我々に逆に気を遣ってくれたのでしょうか?

顔に笑顔が戻りました。

ニコニコ聞いています。

しかし、
次第に車内が静かになってきました。

後部二人の冗談がやんでいるのです。

(おかしい。何かがおかしい。
この女の子、さっきからニコニコしてるけど、
一言も口きいてないやんけ…)

どうやらそのことにみんなが気付いたのでしょう。

しーんと静まりかえる車内に、
女の子だけがあいかわらずニコニコしています。

(…やばいっ!こいつ人間と違う!!!)

そう思った瞬間、
ニコニコしていた女の子が急に一転し、
ゲラゲラと白目をむいて笑い始めたのです。

うわぁ!!

と、同時に口から血が吹き出るように飛び散り、
後部座席は一瞬にして血の海となったのです。

ぎゃぁぁぁ~~~~!!!

驚いた運転手と先生は
車から飛び出して逃げたのですが、

「あかん!お前!!
あいつら逃げとらへん!!!」

そう、2ドアのため
後部座席からは容易に出ることが出来ないのです。

「どないすんねん!」

「あほぉ!ほっとけへんやろ!」

そして、二人は
恐る恐る車に戻ってみることにしました。

車はヘッドライトを着けて、
ドアをあけたままの姿でそこにあります。

耳をすましてみても
何も聞こえてきません。

辺りは何事もなかったように
シーンと静まりかえっています。

車内にも物陰はありません。

そっと車内を覗いて見ると、
さっきの女の子の姿は既にありませんでしたが、
一人が完全に気を失っており、
もう一人は放心状態でヘラヘラ笑っているのです。

今でも後部座席の一人は、
精神がおかしくなったまま
病院通いを続けているそうです。

ところがこの話は
これで終わりではないのです。

数年後、
そんなことも忘れていた先生は、
ある日違う友人達とドライブに出かけたそうです。

「なぁおまえ、ここの大木、
右側通っていったら
血まみれの女の子に会うって知ってるけ?」

突然友人がそんなことを話し始めた。

「!!!あほぅ…。
だ、誰がそんなこと言うてたんや?」

先生の顔色がかわる。

「いや、聞いたウワサや。ハハハ。
なんや、おまえも知ってたんか…」

「…」

「おもろそうやな。通ってみるで」

「あほぅ!!やめとけ!!
通るんやったらワシ降ろして一人で行け!!」

「なにおこってんねん!
おもんないなぁ。
…なんやコワイんか?」

「コワイ。やめてくれ」

「大丈夫や。昼間やし」

そういって友人はいきなりハンドルを切ると、
強引に大木の右側を通ってしまった。

「うわぁ、やめとけ言うてるやろっ!!…ボケが」

「へっへっへ」

「…。あんなぁ、
おまえは知らんで当たり前やけどなぁ。
そのウワサの出所はワシや」

「?!ハ??」

「だいぶん聞いてる話がかわってるみたいやけどな」

そう言って先生は
数年前の出来事を友人に話し始めた。

「…ヤバイわ。通ってしもたやんけ」

友人は話を聞き終わる頃には、
すでに恐怖がこみ上げていた。

「…ボケが」

「ど、どないすんねん!」

「知らんわ!アホ!
…とにかく、もし女の子が居たとしても絶対に車を停めるな!
絶対にやぞ!!
目も合わすな。
そこに居ると意識するな」

そして二人は無言のままドライブを続けた。

しばらく走ったところで先生の緊張が高まった。

(アカン…。おる。絶対におる!!)

「おるぞ。おまえ…感じ…るか?」
「…」

友人は黙ってうなづく。

心拍数が上がる…その瞬間!

「あっ!!」

そう、通過するその一瞬、
ニヤニヤ笑う彼女とすれ違ったのです。

先生は思わずバックミラーに目をやりました。

(おったんや…)

「おまえ見えたか?」

「わ、わからん。
そやけど…バリバリ鳥肌…立ってるわ」

「おったんや。すれ違ごた。
…あほっ!振り向くな!!
そのまま走れ!」

というお話。

先生は何かに怯えながら
ボソボソと話してくれました。

よくありそうな話で
よく出来ているような感じがしたのですが、
ところどころ人間臭さがあり、
それが妙に真実味を感じさせていました。

多分、僕の文章では
そういう微妙なニュアンスが伝わらないかもしれませんね。

ちなみに今は道路も舗装され
大木は伐採されております。

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