中学3年の時、
同じクラスになったNと言う女の子と仲良くなりました。

おっとりして優しくて、
女の子らしい良い子でした。

普段は物腰柔らかく笑顔を絶やさないNでしたが、
何故か水道を前にすると怯えた表情になり、
口数も少なくなるのです。

水道から出る水と水道その物が苦手であって、
飲み水やプールなどは大丈夫だったようです。

水道嫌いの理由を聞いても、
何も教えてくれませんでした。

夏休み。私とNは、
当時所属していた茶道部の練習をしに学校に来ていました。

練習と言っても、お手前をやったり、
簡単なお茶会を開催するだけなのですが。

水道に恐怖心を抱いていたNに代わって、
別の部員がお湯を沸かしていました。

その日も、
私と後輩部員が一緒にお湯を沸かしました。

Nはいつもと変わらず穏やかな様子でした。

さて、
お茶会も和やかなムードで終わり、
片づけの時間になりました。

茶碗や水差しは、
作法室の隣の家庭科室の流しで洗うことになっています。

みんなで手分けして洗い物を運び、
洗う係と布巾で拭く係に分け、
おしゃべりをしながら片づけを進めていました。

Nと同級生のKは、
作法室で別の道具を片づけています。

私達は洗い物が終わると、
家庭科室を出ました。

すると廊下にKがいます。

どうかしたのかと尋ねると、
片付けをしてる最中いきなりNが何事か叫んで、
外に出て行ってしまったと言うのです。

これから今日の反省会があります。

みんなでNを探すことになりました。

私と何人かの友人は、
職員室方面に行ってみました。

しかし、職員室にはほとんど人がいませんでした。

Nも当然いません。

ドアを閉めて廊下を戻ろうとすると、
男の先生の怒鳴り声が聞こえました。

「やめなさい!!」

職員室は校舎の一番東端にあり、
その前の廊下には職員達が出入りする出入り口がありました。

声はその出入り口の向こう側、
つまり外から聞こえます。

私達は何事かと、
チラッと外を覗きました。

外には職員用の簡単な靴箱と、
近くに運動部の人が利用する大きな足洗い場と、
沢山の水道があります。

その足洗い場から大量の水が溢れていたのです。

排水溝があるのですが、
それでは間に合わない程の量の水が水道から流れ出ていました。

元々浅い洗い場だったので、
普段から水はあまり出さないように注意されてました。

一番端っこの大きな水道の前に、
Nと先生がいました。

「やめなさい!」

なんとNは、
両手で水道のレバーを思いっきりひねっているのです。

怒鳴りながら先生はNを水道から離そうとしてます。

蛇口からは滝のような水が流れ、
先生もNもずぶ濡れです。

見ると、
他の蛇口からも最大量の水が勿体ないほど溢れています。

「出さないと!全部出せよ!!なくなるまで出さなきゃ!」

とにかく「出さなきゃ」と叫びながら、
狂ったようにレバーを、
これ以上捻れないという所まで回しているのです。

普段のNからは想像も出来ないような声と表情でした。

何人かの先生が来て何とかNを取り押さえましたが、
なおもNは狂った様に、

「全部出すんだあぁぁぁぁぁぁ!!」

と男のような声で叫んでいます。

声が枯れるまで語尾を
「あぁぁぁ」と伸ばしています。

なかなか落ち着かないNを保健室に無理矢理運び、
十数分後家の人が迎えに来ました。

私達は不安げに、
家の人の車に乗せられるNを見つめていました。

もはや声が掠れて何を言ってるか分からないけど、
まだ何か呻ってます。

その日以来、Nは学校に来なくなりました。

噂では受験ノイローゼで、
どこかの精神病院に入れられてしまったんだとか…。

Nのいないまま私達は受験を終え、
卒業式を迎えました。

Nが転校した事になっていた事を、
その時初めて知りました。

クラスの寄せ書きをNの家に届けたかったのですが、
既に引っ越していたのです。

数年経った今でも、
水道を見るとたまにNの事を思い出します。

蛇口から流れる水を見ても、
Nが何を怖がっていたのか未だに理解出来ません。

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