子供の頃、夏休みに親戚のおじさんの住む鹿児島の桜島へ遊びに行った時の話。
 
近所の銭湯へ連れて行かれた。
 
まだ昼間だったから客は少なくて、他に知らないおじいさんとその孫がいるだけだった。
 
ちょっと薄暗くて古めかしい銭湯で、壁には富士山ではなく桜島が描かれていた。
 
妙にぬるぬるしたお湯で、話によると桜島の温泉を引いているとのこと。
 
僕とおじさんが入ってくるとおじいさんと孫は入れ替わりに出て行った。
 
しばらく湯に浸かった後、僕は湯船でうたた寝をしているおじさんを放っておいて頭と体を洗った。

そして湯船のほうを見るとまだおじさんはうたた寝をしてた。
 
僕ももう一回浸かろうと思ったとき、視界に飛び込んで来たもののせいで全身が硬直してしまった。
おじさんの浸かっている湯船の縁から髪の長い恐ろしい形相の男の頭が突然現れたのだ。
 
そしてそいつはおじさんの方をまっすぐ見ていた。
 
入り口の引き戸は開閉するとき大きな音を立てるので、僕が頭を洗っていた間に誰かが入ってきたことは
どうしても考えられなかった。
 
そして湯の中から大きな包丁を持った手が現れ、
手と頭は静かにまっすぐおじさんの方向へ移動し始めた。
 
僕はおじさんを呼ぼうとしたが、恐怖で声が出なかった。
 
そして、包丁がおじさんの顔面の真上に高く振り上げられた瞬間、
ガラガラ!っと大きな音を立てて戸が開き、違う客が入ってきた。
 
同時に手と頭は湯船にポチャンと沈んだ。
 
おじさんは目を覚まし、何事も無く湯船から出て体を洗い始めた。
 
僕は湯船に戻る勇気が無く、そのまま外へ出て、風邪をひいてしまった。
後に来たお客さんがちょっと心配だったけれど、僕は恐怖のせいでそれどころじゃなかった。

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