寒い。ここは寒い。

俺は今どこに居るのだろうか。

凍えてしまいそうだ。

ああ、ずっと下のほうに赤い渦が見える。

「俺?」

名前、俺の名前は何だったろうか。

思い出せない。怖い。

誰か居ないのか?

自分の名前が分からない…誰か、誰か!

誰か、母さん、俺の名前を言ってくれ!

赤い渦からたくさんの黒い手が伸びてきた。

本当にたくさんだ。

黒い手に足をひっぱられる…

違う!俺にはちゃんと名前があるんだ。

ちょっと忘れてるだけ、
すぐに思い出すから足をひっぱらないでくれ!

なあ、俺の名前は何だったかなあ!?

誰か名前呼んでくれよ!

誰か!!


私の兄がバイクで事故を起こし、
生死の境を11時間さまよった時に、

「死ぬ一歩手前に見た」

という光景の手記です。

兄は事故直後、
救急車に乗せられた時にうわ言で、

「俺の名前…名前を呼んでくれ…」

とずっとつぶやいていたそうで、
救急隊員の方が免許証を見て、

「○○さん!あなたは○○さんですよ!」

と言い続けてくれたそうだ。

その方のおかげか兄は奇跡的に命をとり止め、
後遺症もなく今でも元気です。

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