俺は今33歳。

この話をしてくれた友達も同い年。

幼稚園からの仲だ。

小中高と同じ学校に進学し、
お互い高卒で就職した。

俺は地元で就職したが、
友達は地元を離れ他県のとある町の食品関係の会社に就職した。

ところが10年程前、
突然仕事を辞めて地元に帰ってきた。

当時は俺含め仲間連中は仕事を辞めた理由を聞いたが、
なぜかはぐらかして教えてくれなかった。

次第に誰も辞めた理由を聞かなくなって、
俺自身もそこまで興味なかったので聞かなくなった。

ところが先日、
その友達と2人で飲むことになり
他愛もない話をしながら飲んでいたら
友達の方からその話を振ってきた。

友「なあ、俺が地元を離れて就職した会社を辞めて
地元に帰ってきた理由聞きたくないか?」

俺も全くそのことが頭になかったので、
友達の方から話を振られてなんで今更?となったが、
そう言われると気になってくる。

俺「そういえば当時は全然話してくれなかったな。
話していい内容だったのか?」

友「いや、10年も経ったしもういいかなって」

そう言ってグラスに半分ほど残っていたビールを飲み干すと、
ポツリポツリと話し始めた。

友達の話を要約すると次のような感じになる。

俺たちの地元は田舎なんだけど、
その友達が働いていた会社があるのも同じくらい田舎だった。

田舎と言っても
そこそこ栄えた市の中心部に近いところにその会社はあった。

友達は営業部で働いていたらしい。

友達が辞める半年ほど前、
この営業部に中途で50代半ばくらいの男性が入ってきたそうだ。

仮にAさんとする。

このAさんがちょっと、
というかかなり変わった人だった。

なんでも

「色んなところに住んでみたい」

という思いから、
若い頃から定期的に転職して各地を転々としていたとか。

年齢的にもよく採用されたなと思ったが、
かなり仕事ができる人らしい。

この会社の社長も変わった人で、
採用基準が「面白い人」だったらしいので、
それも採用された理由だったのではないかと友達が言っていた。

それに、実際かなり仕事ができたそうだ。

Aさん曰く、年齢的にも転職はこれで最後で、
定年後は自由気ままに各地を転々としながら
余生を楽しみたいと言っていたそうだ。

だが、その望みは叶わなかった。

Aさんが入社して1ヶ月ほど経った頃、
異変が出始めた。

徐々にAさんがやつれていったのだ。

日に日に顔色が悪くなり、
頬も痩せこけみるみる体重が落ち具合悪そうにしていたそうだ。

しかし、そんな状態でも
仕事の質が落ちなかったのがすごかったと友達は言っていた。

ちなみに、その会社は仕事が比較的楽で、
激務で体重を崩したとかではないらしい。

いよいよ体調がきつくなり、
Aさんは3日程休んだ。

その後出社してきたAさんが言うには
病院に行ったら極度の栄養失調だと言われ
点滴をしてきたという。

体調が悪いながらも
それなりに飲み食いはしていたのに、
極度の栄養失調になるのは意味が分からない。

Aさんは趣味でランニングをしていたのだが、
医者から体調が回復するまで控えるように言われたそうだ。

その後Aさんの体調は回復し
1ヶ月が経つ頃にはすっかり元気になっていた。

その頃からAさんはランニングを再開したらしい。

ところが、
しばらくしてまたAさんは体調を崩した。

以前にも増して体調がすぐれなくなり、
再び病院に行くと
今度は入院することになったという。

これでまた良くなると思われたが、
なんとAさんは体調が良くなるどころかどんどん悪くなり、
そのまま亡くなってしまったという。

入院中上司が見舞いに行ったそうなのだが、
帰りに廊下を歩いていると
医者に呼び止められAさんの知り合いかと聞かれたそうだ。

会社の上司だと答えると
医者はAさんには見舞いに来る家族もいないようなのであなたに話すが、
Aさんは考えれないくらい極度の栄養失調だと言われたという。

Aさんが亡くなった後、
遺骨は遠い親戚が引き取っていったが、
Aさんの私物bヘそちらで処分bオてほしいと言b墲黶A友達を含b゙
社員数人がAさんが使っていた部屋の片付けに行った。

会社から1.5km程離れた所に団地があり、
その何室かを会社で社宅として借りていて、
Aさんはその一室に住んでいた。

片付けには管理人のおじさんも立ち会っていた。

管理人「まさかあの人亡くなっちゃうなんてね。
まだ50代くらいだったでしょ?なんでなくなったの?」

友達「なんか栄養失調らしいです」

管理人「栄養失調?この時代に?
まさか・・・。いや、そんなことは。」

管理人のおじさんがなにか含みのある言い方をするので
友達は気になって聞いてみた。

友達「なにか心当たりがあるんですか?」

管理人「ありえないとは思うけど、もしかしたら・・・。」

そう言って管理人のおじさんが話し始めた。

管理人「すぐそこに森があるの分かる?」

友達「分かります。行ったことはないけど」

管理人「あの森の中に神社があってね」

この森というのはその団地から150m程離れた所にある森で、
市の中心部というのに鬱蒼と茂っていて目立っていたため
友達も知っていたが、
その森の中に神社があるのはこの時初めて知ったという。

管理人のおじさんの話によると大昔、
その辺り一帯で大飢饉があり
沢山の人が亡くなったそうだ。

人々は様々な対策を行ったが効果はなく、
最後は神頼みとなった。

村中からなけなしの金を集め、
都から名のある祈祷師を呼び寄せ祈祷を行った。

すると祈祷師がこんなことを言ったという。

祈祷師「この土地には非常に強い力を持つ禍つ神が取り憑いている。
これは人の力では払えない。」

ここで言う禍つ神とは固有名詞ではなく、
疫病神や祟り神などの災神の総称であり、
この土地に憑いていたモノは神と呼ばれこそすれ、
実際は神というよりアヤカシに限りなく近いものだが、
その力は神に匹敵するのだという。

それは強大な力で飢饉を引き起こし、
それによって亡くなった者の魂を喰っていたのだそうだ。

祈祷師いわく、
祓うことはできないが
可能な限り力を抑えることはできるという。

人々は祈祷師に言われたようにその地に社を建て、
そのモノを祀った。

正確には祀ったのではなく、
それ自体が封印の行為だった。

そして祈祷師が言うには、

・社の手入れは定期的に行うこと。
・決して手を合わせて拝んだり、お供物をしてはいけない。
・手入れをする者以外の人はなるべく近づいてはならない。

ということだった。

社の完成後、
祈祷師は三日三晩社に向かって祈祷を捧げ、
その後その場で力尽きたという。

その後飢饉は収まり、
その地の人々は祈祷師の言いつけを守り、
現代に至るのだという。

時折面白がってその社に手を合わせた者がいたが、
決まってその者は近うちに亡くなったと言われている。

その社があるのが例の森なんだそうだ。

しかし、今では昔話程度に伝わるだけであり、
管理人のおじさんも昔話程度に聞いただけで、
本当の話かどうかも分からないそうだ。

社の存在自体知っている人はほとんどいないという。

ただ、どこかの神社の神主が
定期的に手入れには来ているらしかった。

管理人「Aさん、ランニングしてたでしょ?
森の方に走っていくのを見たことがあるんだよね。
もしかしたらランニングの途中で社に手を合わせてたんじゃないかな。
それで社にいるモノに魂を吸われちゃったんじゃないかな。
栄養失調って飢饉を連想する症状だし。
まあ、想像だけどね」

話を聞いていた友人の背中に冷たいものが走る。

平静を装っていたが、
作業する手は震えていた。

思い当たる節があった。

Aさんは最初に病院に行った後
しばらくランニングを止めている。

その時体調が回復してる。

ランニングを止めていた間は
社に手を合わせていなかったのではないか。

そのため体調が回復したが、
その後ランニングを再開すると
また社に手を合わせるようになったのではないか。

そのために社にいるモノに連れて行かれたのではないか。

そんな考えが頭の中でぐるぐる回っていたのだそうだ。

そんな得体の知れないモノがいるかもしれない街に
住んでいたくはないと思い、
会社を辞めて地元に帰ってきたのだという。

「その街に行くことは二度とない」

と言っていた友達が印象的だった。

以上、長くなりましたが、
友達から聞いた話です。

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