その日、Nくんは遅めの食事を高速道路上で取っていた。

工事中、保安の関係で警備員は一斉に食事休憩を取ることはない。

その晩Nくんはローテーションの最後の順番で、休憩に入った時は3時近くになっていた。

食事休憩と言っても高速道路の上である。

勝手に下に降りるわけにもいかないし、当然、ゆっくりと休める場所は無く、
Nくんは長く伸びた工事帯のはずれで1人食事を取っていた。
道路の上に腰を降ろし、工事前に買ってきたパンをほおばろうとしたときだった。

「おっ? 今頃食事かぃ? 遅いじゃないか…。」

と、声をかけられた。

見ると、顔見知りのトラックの運転手が彼を後ろからのぞき込んでいる。

「そうなんですよ、おなかが減っちゃって…。 運転手さんはもう食べたんですか?」

Nくんは運転手にそう返した。

「いやぁ、俺らもまだなんだわ。 それにしてもおいしそうだなぁ。 ちょっとくれよ!」

運転手は冗談半分にパンに手を伸ばした。

「またまたぁ…ダメですよ!」

Nくんは運転手からパンをさっと隠すと笑った。運転手も、その様子を見て笑った。

「邪魔したな。じゃ、また!」

そういうと、運転手は工事帯の奥の方にある自分のトラックの方へと歩いていった。

4つ程のパンを食べ終え、最後の1つをビニール袋から取り出そうとしたとき、
Nくんは背後から再び声をかけられたような気がした。

ちょっと、目線を送ると彼の後ろから誰かがのぞき込んでいる。

「はは~ん、運転手さんだな…」

彼は顔の方に首を向けた。

しかし、その顔は運転手では無く、知らない中年の男の顔だった。

暗い高速道路上でその顔は、いやに白く光って見えた。

さらに、目線を上げるとのぞき込んでいるのはその顔ひとつでは無かった…。

その白い顔の上から、もうひとり中年の男がNくんをじっとのぞき込んでいる。

「なんだろう?俺なんかしたかな?」

そう思った彼は、男達の顔を見るべくパンを道路に置き、ゆっくりと体をひねった。

「い、いっ!?」

Nくんをのぞき込んでいたのは2人では無かった。

その2つの顔の上で、さらに3人の男が彼をのぞき込んでいた。

しかも、どの顔にも首から下は無い…。

胴体のない白い顔だけが真っ直ぐ上に5つ並んで彼をのぞき込んでいたのだ…。

「あっ!……トーテムポール……」

Nくんは次の日から仕事を休んだ…。

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