怖い話ってのは、
人それぞれ感じ方が違うんで難しい。

なので、“怖かった話”をひとつ…。


幼かった頃、
確か5~6才くらいの1970年代後半。

真夏の夕刻、
外は薄暗くなりかけていた。

父が

「ビールを買いに行く」

と言うので、
あわよくばジュースをねだろうと思い、
ついていく事にした。

玄関ドアを開くと突然の夕立。

酒屋までは直線距離にしても150mあるかないかの距離なので、
俺は無意識のうちに傘もささず駆け出した。

150mの距離の中、
20mもしないうちに住宅街の十字路に差し掛かるのだが、
その一角に見えた。

“見た”と言うより、
視覚を無視して直接意識に飛び込んできた感じ。

赤いハット
赤い靴
赤い傘
赤い唇
赤いコート

全てが赤い女。

十字路の片隅で、
雨の中、傘をさし立ち尽くしてる女。

“赤”の全ては、
今思えば時代を象徴しているかのような
エナメルチックなテカテカ、ツルツルしたような赤。

ただ、そのエナメルのような素材から、
レインコートかな?とも思えた。

コートは妙だ。

真夏である。

傘もさしている。

蒼白というのか、
曇り空色の顔はうつむき加減でピクリとも動かない。

俺は雨の中走ってた。

まじまじと見つめていた訳じゃない。

情報として瞬時に飛び込んできた。

その時点では、
不思議っていうしか言いようのない感情ではあったが、
すぐさまそこを離れたい気分でもあった。

酒屋に着くと、
父も傘はささず小走りでやって来た。

店はカクウチ(立ち飲み)もできるような酒場だったので、
父は店で出会わせた近所のおじさん連中と談笑を始めた。

30~40分は経ってただろうか、
俺はその間、酒臭いおっさん連中に馴染める訳もなく、
ひとり、じわじわと恐怖心に変わってきている不思議感を
父や周りの誰かに言いたかった。

しかし、誰かに入れ知恵されたかのようにこみ上げる感情。

誰にも言わないほうがいい!
もうこれ以上触れないほうがいい!

いざ家に帰ろうかとした時には
夜中と変わらない暗さになり、雨は降り続いていた。

もう雨に濡れるからって理由だけじゃなく、
恐怖を素通りしなければ家に帰れないという理由から、
俺は全速力で走った。

街灯にぼんやり照らされる十字路の一角。

視線をそらす。

目を閉じる…

しかし、
一切見ずして走りきるのは到底無理な話。

視界に一瞬とらえてしまった赤い傘。

誰か待ってるのかな?
タクシーでも待ってるのかな?

そんな微かな期待も吹っ飛んだ。

30~40分も待ってるもんなのか??

家に着くと、
父はやはり何も感じなかったように思えた。

小さな町の小さな十字路。

その町でそれから十数年暮らすのだが、
やたら事故は多い十字路だった。

運送会社の軽トラがひっくりかえったり…。

安易に関連付けるのもあれだが、
そう思うようにしようと思った。

幼いこのくらいの歳じゃ“怖い”はMAX。

きっと大人でも気持ち悪い筈。

怖い話なんてリアルで実体験してナンボ…と。

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