やっとできた・・・「鏡」

なあ、鏡って怖くないか?だってよ、見ると必ず自分が映ってて、目が合ってるんだぜ?
 
まるで、鏡の向こうに、もう一人の自分がいるみたいじゃん!
 
……鏡…か。友達の話を聞くまで、普段意識した事がなかった。
 
普段髪をとかす時や歯を磨く時、顔を洗う時…様々な事で『自分』を見ているが、
今までそういう事を意識した事は、一度も無かった。
 
ふぅ…今日も仕事だ。いつも通り朝5時に起きて顔を洗う。バシャッ、バシャッ……
 
ふぅ。タオルで顔を拭いて、鏡を見る。…ん?俺…何で笑ってるんだ?
自分ではそんな感じはしないが…鏡に映っている。

俺が微笑んでいる顔が。まあいいや、今日は何か良い事がありそうだ。俺は仕事に出た。
 
俺は、まだただの平社員だ。

この会社にはまだ入社したばかりで、仕事にも上司にもまだ完璧に馴染めていない。
 
また今日も同じ作業の繰り返し。嫌になりながらも、これも仕事だと思い、着々と仕上げる。
 
すると、後ろから肩を叩かれた。まさか…もうリストラ…?
 
おそるおそる振り返ると、社長が笑顔で立っていた。

『よくやった!君の考えた企画、大成功だったよ!
平社員の企画だからと言って、バカにしていた。私はもう年だから退職する。
君は、まだまだ若い。次は、君が、この会社を支えていく番だ!君に、次期社長を任命する!』
 
俺は言葉が出なかった。まさか…ウソだろ?こんな事が…しかし、とりあえず嬉しい!

いきなり平社員から、社長への成り上がりだ!

四月からだが、今はもう二月。もうすぐ、俺は社長…!胸騒ぎが止まなかった。
 
『さて、仕事を続けてくれ!君にはこれからも期待してるぞ!』
 『はい!ありがとうございます!』
 
俺は、張り切ってパソコンに向かった。その時、画面に映る俺の顔は微笑んでいた。
 
仕事が終わり、家に戻った。今日は何と良い日だったんだ!

俺は、今日の夜は一日中、電話で色々な友達に自慢しまくっていた。


次の日。今日は昨日と違い浮かれ気分でいつも通り5時に起き、顔を洗う。

バシャッ、バシャッ…ふぅ。
 
タオルで拭いて、鏡を見る。…え?何か悲し気な顔をしている。
 
しかし今、俺は上機嫌で、俺自体はやや微笑んでいる。

何だこの鏡は?昨日といい、何か嫌な感じだ。
 
昨日は笑顔だったからまだしも、今日は映っているのが嫌な顔だったから、
何か今日は嫌な事がありそうでならなかった。
 
しかし、俺は次期社長。気を取り直して、仕事に出るか!
 
そして仕事に向かった。入ると、何故か社員はみんな冷たい目で俺を見ていた。
 
俺が次期社長だという事に焼いているのか?いや、そうではない。
 
何と、社長までもが俺を厳しい目で見ている。

一体俺が何をしたと言うのか?社長に尋ねてみた。
 
『どうしたんですか?』
『どうしたじゃない!君のせいで…君のせいでこの会社は…倒産だあ!』
 
そんな…バカな?一体何があったというのか?社長にさらに尋ねてみた。
 
『君の企画した情報が、君のパソコンからハッカーか何者かに抜き取られて、
まんまとパクられてしまったんだよ!
遅れてその企画を発表したら、盗作だと訴えられて大変な事に…
何もかも君のせいだ!もう終わりだぁぁ…』

社長は泣き崩れた。
 
まさか…そんな事が…倒産ということは、俺は、失職?いや、俺だけじゃない。
 
この会社の、みんなが…そんな、バカなああ!俺も泣き崩れた。
 
帰りの足取りはもちろん重かった。
 
ガラスの向こうの喫茶店では、エリートサラリーマンらしき男と若い女性が仲良く話している。
 
俺は憂鬱になった。その時、ガラスに映っている俺の顔は、悲しげだった。

家に帰って、不思議に思った。

あの鏡に映った表情が、その日の出来事を物語っているんじゃないか…。
 
そう思いながらも、明日は良い表情が映ると良いと思い、眠った。
 
俺は起きて、すぐさま鏡のある洗面所へ行った。そして、顔を洗って鏡を見た。
 
すると、何とそこには、何かが書いた紙が俺の顔に貼られてある姿が映っていた。
 
その紙には、何と『負け犬』と。
 
俺はさすがにキレた。
 
『何でだよ!俺が何したって言うんだよ、このクソ鏡が!』
 
そう言って、俺はその鏡を思い切り、
 
『ガシャアン!』
 
と割った。すると、ヒビ割れながらも、その鏡には新たな俺の姿が映された。

その姿は、首を吊って、口から血を流しながら笑ってこっちを見ている、
白黒の俺だった。

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